いつかはトムソーヤ

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私の前世はなんだろう ーー ヨルシカ ライブ2023「前世」

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2023.2.8 ヨルシカ ライブ2023 前世

 

冒頭、ナブナさんの語りで緑道で以前交際していた男女が再会するシーンが始まる。おとなしい。いったいどんな話なんだ。

 

男性が女性に、自分の前世の話を始める。

 

緑道といえばあの曲か…と思ったが、違った。でもある意味合っていた。

 

オープニングは「負け犬にアンコールはいらない」。

 

過去のライブでも速めの曲をオープニングに持ってきていることから、「言って。」「あの夏に咲け」「又三郎」などもありえるかと思っていたが、負け犬とは驚いた。

 

それ以上に驚いたのはスイさんの服装である。真っ赤なワンピース(あとで見るとコートだったらしい)。

 

これまで彼女は紺や白、ベージュを選ぶことが多かったのではないか。

 

髪はブルーである。

 

さらに、背景に映し出される映像も月光再演などと比べるとかなり明るい。おとなしい語りで入ったが、音楽で場内が一気に暖まる。

 

「言って。」「靴の花火」などと続く。「ブレーメン」のアウトロのドラムソロからの「雨とカプチーノ」には痺れた。思わず「かっけー」とつぶやいた。

 

「チノカテ」「ただ君に晴れ」なのどのナンバーが響く。今回の公演は作品の発表時期にはとらわれず、ストーリーづくりを重要視しているようだ。

 

中盤、女性はかつて通った男性の自宅に行く。「ホットミルクでいい?」男性がきく。

 

女性は返事しないけど、男は勝手に器を持ってくる。

 

お皿みたいな器でホットミルク飲む人いるんだな。違和感は残る。女性は「ソファーに置いたミルクがこぼれないないように」という。普通ソファーに置くか?と思う。

 

女性は棚の写真立てを落とす。写真は葉っぱが強い風で落ちてしまい、季節を間違えた桜が秋に咲く「狂い咲き」の様子を二人で見に行ったときの一枚だ。

 

女性はなぜかなかなか声が出せない。

 

季節外れの「狂い咲き」といっても、ぽつぽつと咲くだけらしい。満開の桜をイメージしていた二人は、笑いながら花見をする。「次はあれか?」と思いつつ、なかなか来ない。

 

写真立てをまた落とす。

 

「だから僕は音楽を辞めた」「冬眠」が進む

 

終盤、男性は女性が返事をしないことが分かっていると言い出した。なぜか。

 

女性は犬だった。コーギーである。

 

謎が解けた。不自然なホットミルクの器も、2回も倒してしまう写真立ても、声が出せないもの。

 

でもいきなりは来ない。昨年リリースの映画タイアップ曲「左右盲」を挟む。いい曲だ。

 

そして、会場が待っていた一曲が来る。全員が分かっていた。「春泥棒」の特徴的なイントロがなる。ああ、ついに。全ての要素が完全につながった。桃色の映像が美しい。

 

「言葉如きが語れるものか」これをスイさん生の声で聞きたかった。

 

上空から花びらが噴き出してきた。会場全体に舞う。

 

幸せすぎる。

 

春泥棒が持ち去ったはずの桜が、あるいは女性の命が、目の前に広がっている。

 

まだ日本武道館の外は2月の寒い日である。でも確かに、あの瞬間、会場には春が来ていた。

 

持ち去られた春は、ヨルシカがまた持ってきてくれた。

 

持ち帰った紙吹雪をよく見てみると、桜の花びらではないようだ

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百日紅だ。

 

よく見たら、ステージにあった木も百日紅だ。

 

「はらり、今、春仕舞い」

 

素晴らしいライブだった。いや、コンサートという方がいいかもしれない。映画のようでもあった。

 

間違いなく、いまヨルシカにしかできないパフォーマンスだ

youtu.be

 

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席はアリーナ席前方右側だった。悪くない席だ。

退場まで待たされた。その代わりゆっくり余韻を味わえた。

 

武道館の通路に貼ってあるポスターに描かれている女性がコーギーに変わっているではないか。憎い。

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歌そのものだけではない、会場のセットや演出、語りも含めた、総合芸術だった。

 

ヨルシカは間違いなく、本邦で唯一無二のアーティストだ