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ヨルシカ「月と猫のダンス2024」レポート 追加公演の魅力を明らかにした傑作ライブ

歌手やアイドルグループがコンサートやライブの追加公演を行ったり、数年後にリバイバル公演を開催したりすることは少なくない。曲目や演出は大胆に変える場合もあれば、ほとんど同様の内容であることもある。

ヨルシカは再演が好きだ。いや、再演は必然か。2022年の「月光」、23年の「前世」は再演、そして今回の「月と猫のダンス2024」は23年の同名ツアーの追加公演との位置付けで開催された。


筆者は23年の「前世」再演の東京公演2日目に参加した。よろしければ感想(というかメモ)をご覧いただきたい。

この時は2021年のオンラインライブ「前世」と演出や曲目が大きく変更された。有観客ライブと配信ライブで異なるのは当然なのであるが、この前世はヨルシカのライブでも語り継がれることになるだろう。映像化もされない見込みだ。

そして、今回行われた「月と猫のダンス」の追加公演。昨年から1年で開催される。どんな公演にするのか注目されていたが、実際に今年のライブを見て思ったのは追加公演の魅力を示した傑作ライブだということだ。

2曲目で外す

本公演も、基本的には朗読劇と歌唱が交互に行われる形態。なお、本稿では、本格的にヨルシカの世界観や公演の内容を考察している方のような厳密な考証はできない。

朗読劇は基本的には前回通りのプロット。ざっくり言うと思い通りの絵が描けずに悩む画家の部屋にさまざまな動物たちが訪れる。画家は紆余曲折あってその動物たちの絵を描くことになる、という話。

1曲目、ブレーメン。前回と同じかと思ったところ、2曲目は雨とカプチーノである。思わず「違うっ!」と声が出た。今後、どんな曲が来るか分からないではないか。

その後はさよならモルテン、又三郎と続いた。そういえば前回は朗読劇が見にくかったが、今回はスクリーンに演者さんが大映しになっていて非常に見やすかった。ステージも別だったこともよかった。

月に吠える、451と続く。ナブナさん歌上手くなってる!と思った。ツイッターでも同様の感想があがっていたので、気のせいではないだろう。

手を叩くか、叩かないか

朗読劇を挟んで都落ち。そろそろ「幻燈」を外してくるかと思ったところ、「ただ君に晴れ」がきた。ヨルシカでも有名な曲の一つだ。正直、なぜこの曲が追加されたのかはよくわからない。前後の朗読劇との関わりも謎だ。

ただ、この曲の魅力はヨルシカの中では珍しく、明確に手拍子や合いの手を観客側が入れられるタイミングがあるということだろうか。自分はやらなかったのだが、周囲を見渡すと1階席でも3~4割ほどが手を叩いていたように思う。

その後はチノカテ。これは前回と同じ。

朗読劇を挟んで第五夜が続く。朗読劇は、主人公が新たな絵のモチーフとして動物たちを描き始める展開へと移る。

「雪国」と「いさな」。圧倒的な歌唱だ。この2曲は筆者も「幻燈」の中で特に好きな曲だが、スイ氏の声と相性がいいのだろう。素晴らしい仕上がりでこの公演のハイライトともいえる。

朗読劇は終盤。「斜陽」を入れてきた。想定された追加だ。前回公演から今回までの間にリリースされた曲が数曲追加されると予想していたので、ようやくきたかと思った斜陽を示す赤色のライティングが美しい。

その次、ヨルシカ始まりの曲「靴の花火」が来た。これには逆に驚いた。この曲は幻燈の中でも再録音されて収録された曲。これまで何度もライブで披露しているため、新曲と入れ替えるのなら真っ先に候補になる曲だからだ。

しかし何度聞いてもいい。筆者が一番好きな曲であるということと、再録で柔らかさが増した曲調は本当に心地よい。

いまやらずにいつやる

朗読劇は終わろうとしている。左右盲は前回通り。その次に来るのがまさかの「春泥棒」である。

前世2023は春泥棒にまつわる話といっても過言ではない。しばらく春泥棒はやらず、何なら5年くらいは聴かなくてもいいと思ってたのでイントロ来たときびっくりした。季節柄、桜が東京で満開を迎えていた4月7日にやらずにいつやるんだという感じではある。

アルジャーノンで終わった。画家は動物たちの絵で個展を開く。

最後、画家に「あなたの描く絵はつまらない」といった元恋人が登場。女性の第一声を聞いて息をのんだ。スイ氏ではないか。

いや、違うか。あまりに演技が上手い。声が似ている別の人か、と思い直しているうちに公演は終わった。

今回の公演、ヨルシカの世界観や考察やよくわからないが、初回公演からの変更が実に上手くきいていたと思う。やはり単独公演である以上、ツアーとは別の価値を付ける必要はあるだろう。ヨルシカも大きなレコード会社に所属しており、大きな会場でかなりの費用をかけて単独公演を行うわけだ。自己満足のセットリストというわけにもいかぬ。

その中で、ツアーコンセプトと観客の聴きたいヨルシカを融合させた結果がこれであろう。ヨルシカはやっぱりツアーより単発の公演が面白い。

なお、終了後公式が発表するキャストに驚愕するのであった。

元恋人:suis。いや前世でどんな徳積んだらスイさんと元恋人になれるんだよ!