いつかはトムソーヤ

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ちはやふる 結び 2018年にいちばん観てよかった映画


2018年はミッション・インポッシブルとちはやふる結びがほかを大きく引き離して自分の中で大好きな映画になった。

ミッション・インポッシブルのファンなんて何億人もいるし、トム・クルーズのすごさは自分が言わなくても全然良い。
だけどちはやふるの3部作は自分の中でもずっとずっと大切にしていく作品になった。
のに!1年の中で最初に出た映画って、だいたい年末になると忘れられる傾向にある。この年末、ちはやふるがなかなか「今年ベスト!」に挙げられないのがとても悲しい。「ちはやふる」の何に自分がが心を洗われたのか言いたい。

 

見終わったあとしばらくその映画のことしか考えられなくなる

どんな映画が好みか、人によって全然違う。ただ、それぞれの価値観の総称が「今年一番見てよかったと思う映画」ならば、私は「ちはやふる 結び」が一番みてよかった映画だと思う。
私の見てよかった映画の基準として考えてるのは「見終わったあとしばらくその映画のことしか考えられなくなる」ってこと。たとえば帰りの電車の中でずーっとその映画のことを調べたり、他の人の感想を読んだり、役者さんのウィキを読んだり。帰ってからはずっとその映画の予告編をみたり、サントラを聞きまくったり、YouTubeにある舞台挨拶とか公開直前特番を見まくったり。
その後1か月くらいは1日10回くらいその映画のことを思い出す。家に帰ったらすぐまた予告編とか感想を読みまくる。

これが僕の「見てよかった映画」

ちなみに、基本的に見ない映画もある。
このジャンルっていうのは言いにくいが、スターウォーズ、バーフバリ、マッドマックスみたいな感じの映画は見ない。ホラーもみないので、ドントブリーズ、クワイエットプレイス、へレディタリー継承も見ていない。ボヘミアンラプソディも見ていない。あとアメコミ系、MCU系もめったにみない。

好き嫌いとかでなくて、単に「観ていない」のであしからず。

で、これらの「基本的にみない映画」に、ちはやふる結びが当てはまらないのかというと、正直結構怪しい。

なんでちはやふる第1作「上の句」を観たのかよく覚えていないけど、ちはやふるが自分の大好きな映画になったからといって、今後もこのタイプの映画が好きになるかわからない。
ちはやふるが特別だったかもしれないから。

この映画、シンプルに言えば「一生懸命頑張ってたり、なにかにまっすぐな人の様子を良い脚本と演出と演技で丁寧に映画にした」という話。

「結び」はそれを超高度に成功させているところがすごい。

競技かるたに一生懸命がんばっている登場人物やその周りの人の姿は間違いない良さなので、脚本に触れたい。


光る脚本、演出、演技

作品に一貫しているのは結局、太一がかるたを続ける理由の話。

だってこの作品ははじめっから千早と一緒にいたいがためにかるたを続ける太一っていう不安定材料があった。千早が離れてしまえば太一はかるたをやめる。それは結局上の句でも下の句でもそう。それに決着をつける脚本にするには、とうとう太一から千早を離さないといけない。千早がいなくなってもなお、太一がかるたをやる理由を真に見つけるのか、見つけられなくて終わるか。
だから結びの最後のシーンは、太一が千早を新の目の前に連れて行って返事をさせる。

この脚本を成立させるため、結びの冒頭では、ずっとあった作品の不安定性を新の告白という形で露呈させる。かるた部に迎えた新1年生に、太一が一番ショックだろうことを言わせる。
太一が千早が離れてしまうとわかってかるたをやる理由がなくなる。

まさに「おれ、お前のためにかるたやってた」ってこと。

映画では、太一が一度はかるたを離れたところで、作品中で圧倒的地位にいる周防さんが太一のメンター役になった。かるたを続ける理由を見つけさせ、太一をまた畳の上に戻す。そしてずっと探してた「かるたを続ける理由」を与える。

本当に真っ向勝負の脚本だ。

演出と演技による強力な支えが重要で、自分はこの2つがちはやふるの厚みを一回りも二回りも増してると思う。セリフに頼らないメッセージの伝達を支えてる。

太一は、周防さんを通じ、千早やかるた部の面々からいろんなものを与えられていたことに気がつく。
いまさらいちいち指摘するのも野暮だけど、上の句ではお話上の単なるシーンだった「屋上に閉じ込められた太一を、ちはやがドアノブをとって開ける」姿。
下の句まで太一は「与える」ことはできない。運命戦でずっと自分の札が読まれない。

それに対し、「結び」ではついに、太一が選んだ「しのぶれど」が読まれる。太一が送り札をして自分のほうに残すと決めた札を、千早やつくばくんも残す。

「しの」が読まれる。読まれたことを伝えるのは読手の声と、3人が畳を叩く音だけ、それ以外無音。

太一は周防さんの言葉どおり、まわりに「与えられる人」になった。「いままでで一番強い俺」になってかるたをやれた。

これをすべて演出とかるたの試合で伝える。

なんて感動的なシーンなんだろう。

役者さんの演技も、もちろん素晴らしかったが、中盤、無音で畳に泣き崩れる千早の姿は、一生忘れないだろうな。あの無音の中、部室にある一つ一つの道具もそうだし、「繋ぐ」で肉まんくんが隠した札を見つける意味。

演出と広瀬すずが完璧にシンクロした、日本映画の歴史に残る素晴らしいシーンだった。

ほかにもある。こういう青春映画って自分たちがよければほかはどうでもいい演出が多い。ルーキーズ症候群あるいはスーパー戦隊変身シーン症候群みたいな感じ。
でもちはやふるはちがう。負けたチームは青春が終わるし、くやしいばっかり。それを演出で入れて、ちょっと現実のラインが上がって、千早は一旦冷静にさせられる。同時に、観てる側もはっとする。

こういうのの積み重ねで感動が増す。

演出のよかったところあげていくときりないけど、すみれちゃんが爪を切るところとか
つくばくんが素振りするところとか
机くんが都大会で勝って、それが机くんが自分で前にいった「都大会の新ルール」とリンクしてることとか
終盤のかなちゃんと千早の屋上シーンとか

脚本と演出・演技が完璧に噛み合って、この素晴らしい作品ができたのだと思う。

ちはやふるは原作人気がとても高い。
漫画原作、はやりの役者さん、3部作とくれば、近年の日本映画では見る前から「駄作」に決まっていた。

これまでも、そしてこれからもちはやふる3部作はその例外として、素晴らしい映画としていろいろな人に愛される作品になるのではないかと思っている。

2018年は「ちはやふる 結び」が、そしてこれまでの上の句、下の句を含めて、私のこれまでの好きな作品ベスト10に入ると断言したい。

こんな映画をつくってくれてありがとうございました



(参考 2018年映画ベスト10)
なんかもう別枠 ミッション・インポッシブル フォールアウト
1位 ちはやふる 結び
>>>超えられない壁
2位 万引き家族
3位 ペンタゴン・ペーパーズ
4位 スリービルボード
5位 デトロイト
>>結構な差
6位 カメラを止めるな!
7位 若おかみは小学生
8位 15:17パリ行き
9位 チャーチル
10位 名探偵コナン ゼロの執行人