いつかはトムソーヤ

映画、本、写真

正直『君の名は。』がすごかった話。

久しぶりのブログエントリですが、先日鑑賞した『君の名は。』があまりに良かった、いや、というか見てしばらくいろいろなことを考えていると正直、ええ、私感動してしまいました。



なぜこんな感情になっているのか。やはり映画鑑賞が趣味というくらいですからそこはきちんとまとめたいと思った次第です。

(!)ネタバレがあります





君の名は。の自分的評価が高い理由①:事前の期待値があまりに低すぎたw 

元来私はこうした「恋愛系」アニメを忌避してきました。本当に個人的な理由ですが私は物理的にありえないこと基準としてつらつらと好きだ会いたい離れたくないを繰り返す映画が嫌いです。本当に嫌いです。
ですから、話題の俳優を起用してとにかく若者ウケする細い脚本を書くような映画は基本的に見ません。 例を出したいものの、そういった映画を見ていないために、具体例も思いつかない・・・。
ざっと調べると「今日恋をはじめます」「四月は君の嘘」「青空エール」とかが出てきました。間違ってたら申し訳ないのですが、これらはタイトルだけで間違いなく候補から外れる作品です。

であれば、「君の名は。」も例にもれず忌避されるはずです。
事実、確か4月くらいから映画上映前のCMで流れ始めたかと思いますが「勘弁してよこれだから邦画は…」と思ってました。一応、映画鑑賞が趣味ですから、君の名はという私が嫌うタイプの作品が来るのねというくらいの認識でした。

公開からしばらく経ち、周りの反応を聞くに「これはもしかして・・・」と思い始めたわけです。映像がキレイという評判。主題歌だけと思ってたRADWIMPSの参加ですが、どうやら音楽全般をプロデュースしているらしい。新海誠監督の過去作は全く存じ上げていませんが、すくなくとも映像がそんなにキレイで音楽も良いなら、映画館でみるってだけでも価値あるなあと思い始めたのです。 

自分として、脚本というかストーリーでたぶんマイナス5億点、映像と音楽で5億点で一応、中立なスタンスで見ようと思って映画館に行きました。ところが・・・たぶんこの「ストーリーがマイナス5億点」 という前提が私の中での「君の名は。」の評価にあったので、この前提が崩れた瞬間、ぴったりハマってしまったのだと思います。



 君の名は。の自分的評価が高い理由②:予告詐欺とも言えるほどのストーリー的誤解。

今回の「君の名は。」の予告の内容は、映画が始まって40分ほどの出来事しか分かりません。これはいままでの様々な映画で取り入れられたことではないでしょうか。たとえば「ゴーン・ガール」(2014)とか「ベイマックス」(同)など。ゴーン・ガールも予告は前半の1時間の内容にしか触れていません。
今回の「君の名は。」では予告1を見ただけでは、2人の男女の心が入れ替わって、会えるの?会えないの?がひたすらつづく映画としか思えません。だからこそ私は完全に忌避してました。インターネットが普及した今だからいいですが、クチコミでしか評判が伝わらない昔ならまず、私は見に行かなかった作品です。

 

だからこそ、そのストーリー的転換が来た時には心底びっくりしました。ここ最近の映画体験でもなかなかないくらいです。しかもこのストーリー転換がはっきり分かるという点が巧妙だなと思います。
前に述べたように予備知識がまったくなかったので、瀧がラーメン屋で知ってしまう事実のシーンは心底びっくりでした。でもそれがあまりに新鮮だったからこそ、その前のいくつかのシーンが解釈できるようになるという、これは映画として極めて真っ当で、真摯な描写の仕方ではないでしょうか。 
もっと逆説的に言えば、この映画はそもそも恋愛青春映画として売り出し、マーケティングしているはずです。それなのにストーリーの核となる部分がけっこう深刻な話で、背筋を正して聞きたくなる。なんかそのプロットとかも分析してみたくなる。この要素がとり入れられた点が白眉と言えると思います。
もし恋愛青春映画としての売出しではなかったら、脚本も骨太ですという売り出しだったら、ここまでの感動はなかったと思います。



君の名は。の自分的評価が高い理由③:映像がシャープで、細かい気配りを感じる

この映画、正直アニメ映画をあまりに見ないので分かりませんが、新海誠監督の過去作と比較すると、カリカリした描写で、シャープネスが強いように思います。もちろん都会のビル群や町並みはそうですが、たとえば主人公三葉の家の神社の鳥居も、汚れや陰がカリカリめに描かれていたように思います。光の描写もどちらかというと「光」というより「光線」といった感じ。これはかなり好みでした。
また、アニメ映画ではどうしても彩度やコントラスト高めの映像が多いと思うのですが、その中でただカラフルなだけではない、バランスがよかったと感じます。
なにより感動したシーンとして、(勘違いかもしれませんが)太陽に向けた逆光の描写が何度かあります。その中で特に糸守町に光が当たる姿を描写しているシーンがあります。その時、カメラを太陽に向けたときに映り込んでしまうレンズの汚れやレンズフレアといった類のものまで描写されているように感じました。いやあ、「もしこのシーンでカメラを向けたらこうなる」ってことまで考えているのでしょうか。。。もしそうなら脱帽です。
 


君の名は。の自分的評価が高い理由:その他


そのほかには声優の方々。とくに主演の2人は予想以上でした。
JR東日本が協力しているのも素晴らしい。なんども出てくる電車のシーン、「JR」が「TR」とかになってたら興ざめだったと思います。代々木駅の発メロをそのまま使ってるシーンも素晴らしかったですわ。
また、私がとくに新宿〜四ツ谷間を何度も使っていること。東京のシーンは知っているところばかりで、それも大きく影響したのだと思います。


こんな感じで正直君の名は。に感動しているわけですが幾つか気になる点はあります。


やはり脚本的な説明の齟齬と不一致。これは完全には解決できないでしょう。入れ替わりの時に時間のズレには気がつかなかったのか、毎日スマホを見ていたが同じiPhoneを使っていてなぜ時間のズレに気が付かないのか(入れ替わっちゃってたら、普通家からでないだろうという野暮なことは言いませんw)
あと三葉・瀧の家庭環境も掘り下げがほしかったなあと思います。母親が出てこないのが共通点ですが、おそらく瀧の母も居ないか、よほど多忙かのどちらかでしょう。とくに三葉は、おばあちゃん、母、父という三者の関係をもっと掘り下げないと、町を救う際になぜ父と三葉の関係「三葉がお父さんを説得して町を救って!」があまりしっくりきません。

また結局、事実関係としては糸守町で500人以上が亡くなったのが事実なのか犠牲者がほとんどいなかったのが事実なのか、三葉の努力がどんな形で実ったのか、といった気になる部分は基本的に描かれません。すでに決定している運命的なものです


とは言いつつ、ぼくはこの指摘はナンセンスだと思っています。この映画はそもそも、そういったロジックや、まして災害対応をポイント(魅力)にはしていないからです。あくまで入れ替わりと出会いがメインです。町を救えるかはやはりメインテーマではないでしょう。それを考えれば、最後のシーンでそれはきちんと結果がでます。
もしこの映画が脚本の良さやロジックの魅力を売りにしていたら話は違うと思います。でもこれは恋愛映画。恋愛映画においては基本的に結論が感情という主観で描かれるのに対し、君の名は。ではいくつか客観的というか、因果応報的な要因を取り入れているわけです。これこそ、恋愛映画を避けてきた私が君の名は。を肯定的に捉えられる大きな要因でしょう。


あと、賛否ある歌詞ありの挿入歌。最初の「前前前世」のシーンは正直5億点でましたw エンドロールも良かったけど、中盤の挿入歌はいらなかったかなあという感じがします。歌詞なしのほうがよかった。またRADWIMPSの楽曲以外の音楽は素晴らしい、というほどのものではなかったかなと思います。


次回作に求められること 


新海監督も分かっておられるかと思いますが、この予告詐欺ともいえる方法が使えるのも今回までだし、「新海の絵がキレイ」というのも次回からは当然になると思います。今回のように「基本的には恋愛映画といえるけど、ちょっと違う軸を作ってみる」といった作品ではなく、今後はきちんと性質を固定した形の作品が求められると思います。 恋愛なら恋愛、ファンタジーならファンタジー、いのちをめぐる話ならそれ、といったように。
どちらかというとこの点は過去作のほうが振り切れていたのではないでしょうか。


この映画、どうせアニメまともに知らない人が見てヒットしてるんだろうと思って見ないと、損すると思います。もちろん映画をきちんと見て解釈して、それでしっかりしてる映画が良いという人もいます。ですが映画を見て、自分が楽しめ、わくわくするということは本当は素晴らしいことであるはずです。 この映画を見たあとはいろいろな気持ちになると思いますが、基本的に爽快な感じだと思います。

アニメが、恋愛映画が嫌いな人こそ、ぜひ見るのをお奨めします!